REPORT 04 / VERTIPORT

バーティポート・インフラ

空の駅をつくる ― 整備指針・充電インフラ・参入事業者の現況

どれほど優れたeVTOL機体が完成しても、離着陸する場所がなければ空飛ぶクルマのサービスは成立しません。専用離着陸場「バーティポート」は、次世代エアモビリティの成否を左右する社会インフラです。本ページでは、国土交通省の整備指針と4つの機能分類、設置候補地の要件、電力・充電インフラの課題、そして国内外の整備事例と参入事業者の動きを報告します。

バーティポートとは ― エアモビリティ時代の「空の駅」

バーティポート(Vertiport)とは、垂直離着陸するeVTOL専用の離着陸施設を指します。離着陸パッド、駐機スポット、充電設備、旅客の搭乗施設、保安検査機能などで構成され、鉄道網における駅と同じく、路線ネットワークの結節点として機能します。ヘリポートと似ていますが、電動機体への充電機能や、高頻度運航を前提とした旅客動線を備える点で異なる、新しいタイプの交通インフラです。

バーティポートの配置は、エアタクシー事業の商圏設計そのものです。都市中心部、空港、主要駅、観光地、病院などを結ぶネットワークが形成されて初めて、空飛ぶクルマは「点の移動」から「面の交通システム」に進化します。機体開発と並行してバーティポート整備が進むかどうかが、各国の社会実装スピードを分ける決定的な要因と見られており、不動産、建設、電力、商社など機体メーカー以外の産業にとって最大の参入領域となっています。

インフラ投資の規模感も見えてきました。発着専用型のシンプルなポートであれば数億円規模から整備可能とされる一方、旅客ターミナルや複数の充電スポットを備える運航拠点型では数十億円規模の投資が想定されます。世界全体では、2030年代半ばまでにバーティポート関連投資が累計で数兆円規模に達するという試算もあり、機体市場と並行してインフラ市場が立ち上がる構図です。空港・鉄道・不動産の各業界にとっては、既存アセットの上に新しい交通結節機能を重ねることで資産価値を高められる点が、参入動機となっています。

国際的な設計・運用基準は現在策定途上にあり、ICAO(国際民間航空機関)での規格化は2028年頃が見込まれています。各国は暫定基準で先行整備を進めており、日本では国土交通省が「バーティポート整備指針」を公表し、国際基準との整合を図りながら開発を促進する方針をとっています。

国交省整備指針と4つの機能分類

国土交通省の中間とりまとめでは、バーティポートはその機能に応じて4つの類型に分類されています。この分類は、限られた都市空間の中で機能を分散配置し、ネットワーク全体として効率的な運航を実現するための設計思想を示したものです。

表1 バーティポートの4分類(国土交通省 整備指針に基づく)

類型 主な機能 想定立地 特徴
整備・駐機基地型 複数機体の整備・夜間駐機 郊外・空港周辺 格納庫・整備施設を備える大規模拠点。MRO事業の中核
運航拠点型 複数スポットでの発着・充電・旅客取扱 都市部主要地点・空港 路線網のハブ。旅客ターミナル機能を持つ
充電スポット型 離着陸と充電 都市部・沿線 運航距離を延ばす中継点として機能
発着専用型 離着陸のみ 都市中心部・ビル屋上 最小構成。都市内に多数配置し面的ネットワークを形成

出典: 国土交通省「バーティポート整備指針」中間とりまとめを基に当サイト作成。

この4分類は、鉄道でいえば車両基地・ターミナル駅・中間駅・小規模駅に相当します。初期の商用運航では、空港に併設される運航拠点型と、都心のビル屋上に置かれる発着専用型の組み合わせが基本形になると想定されており、事業者はどの類型のバーティポートをどの立地に確保するかという「陣取り」を既に始めています。

ネットワーク設計の観点では、バーティポートの配置は単独の立地判断ではなく、路線全体の運航効率を左右するシステム設計として扱われます。発着枠(スロット)の処理能力、充電時間を考慮した機材繰り、悪天候時の代替ポートの確保などを、運航シミュレーションで検証しながら配置を決める手法が確立されつつあります。1つのポートの処理能力は離着陸パッドと駐機スポットの数で決まるため、需要が集中する都心ポートの容量制約が路線網全体のボトルネックになるという、空港の発着枠問題と同じ構造がエアモビリティでも生じると予想されています。

設置候補地と要件 ― 屋上・空港・ヘリポート転用

バーティポートの設置候補地としては、ビルの屋上、空港・飛行場の敷地、鉄道駅周辺、商業施設、公園、臨海部の遊休地などが挙げられます。既存の約90カ所とされる国内ヘリポートの転用も有力な選択肢で、離着陸帯や進入経路の確保という基本条件を満たしやすい一方、充電設備の追加や旅客動線の整備が必要になります。

設置には複数の法規制をクリアする必要があります。航空法上の離着陸場としての基準に加え、ビル屋上に設ける場合は建築基準法の構造・避難規定、燃料や高電圧設備を扱う場合は消防法の規制が関わります。進入・出発経路の周辺に高層建築物がないこと、緊急時の代替着陸地が確保できることなど、空域側の条件も立地選定を大きく制約します。

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さらに重要なのが社会受容性です。騒音や落下物への不安、プライバシーへの懸念など、周辺住民の理解なしにバーティポートの立地は進みません。eVTOLはヘリコプターより大幅に静かとされますが、高頻度運航による累積的な騒音影響の評価はこれからの課題であり、整備事業者には丁寧な合意形成プロセスが求められています。

立地選定の実務では、需要・空域・電力・法規制・住民合意という五つの条件を同時に満たす場所を探すことになりますが、五条件がすべて揃う「一等地」は都市内でも限られます。このため、初期は空港・臨海部・大規模再開発地区といった条件の整った場所から整備を始め、運航実績と社会的信頼の蓄積に応じて都心・住宅地近接エリアへと広げる、段階的な展開が現実的なシナリオとされています。土地を保有する企業にとっては、遊休屋上や駐車場上部空間など、これまで収益化が難しかった空間資産が新たな価値を持つ可能性があり、資産ポートフォリオの再評価が始まっています。

電力・充電インフラの課題

バーティポートを従来のヘリポートと分かつ最大の要素が充電インフラです。eVTOLの急速充電には1機あたり数百kW級の電力が必要とされ、運航拠点型のバーティポートで複数機が同時に充電する場合、需要は数MW規模に達します。これは中規模のオフィスビル1棟分に相当する電力であり、既存ビルの受電設備では対応できないケースが大半です。

このため、バーティポート整備では特別高圧受電設備の新設、蓄電池の併設によるピークカット、充電スケジュールの最適化がセットで検討されています。機体側の充電規格も各社各様であり、コネクタや充電プロトコルの標準化はこれからの論点です。自動車のEV充電で起きた規格競争と同様の構図が、空のモビリティでも再現されつつあります。

国際的には、充電規格の共通化を目指す業界イニシアチブが動き始めており、機体メーカー各社が共同で標準コネクタ仕様を提案する動きも見られます。バーティポート運営者の立場では、特定メーカー専用の充電設備は投資リスクとなるため、マルチベンダー対応の充電インフラが普及の鍵を握ります。また、充電だけでなくバッテリー交換方式を採用する機体構想もあり、エネルギー補給方式の多様性がポート設計の複雑さを増しています。規格の帰趨は設備投資の回収可能性に直結するため、インフラ参入を検討する事業者は標準化動向の継続的なモニタリングが欠かせません。

電力会社やエネルギー企業にとって、バーティポートは新たな大口需要家であると同時に、再生可能エネルギーと蓄電池を組み合わせた分散型エネルギーシステムの実装先としても注目されています。エアモビリティの脱炭素価値を訴求するには、充電電力そのものの低炭素化が不可欠であり、電源調達はバーティポート事業の競争力を左右する要素となるでしょう。

国内外の整備事例と参入事業者

海外で最も整備が進むのはドバイです。ドバイ道路交通局はJoby Aviationと組み、ドバイ国際空港近接地など市内4カ所のバーティポート整備を進めており、2026年のエアタクシー商用サービス開始を目標に掲げています。米国ではニューヨークのダウンタウン・ヘリポートが電動化改修によりeVTOL対応を進めるなど、既存ヘリポートの転用が先行しています。英国では専業事業者が空港型バーティポートの実証施設を公開し、欧州各国の空港運営会社も検討を本格化させています。

日本では、大阪・関西万博での運航を支えた会場内ポートの経験を起点に、大阪ベイエリア、関西国際空港、都心部での整備構想が動いています。兵庫県や大阪府はバーティポート候補地の調査を進め、空港運営会社、不動産デベロッパー、商社などが事業化検討に参画しています。国土交通省の整備指針を踏まえた具体的な整備計画が各地で策定される段階にあり、2020年代後半の商用運航開始に向けて、用地確保と設備投資の動きが加速する見通しです。

バーティポートは、機体と異なり地域独占性の強いインフラ事業です。優良立地を押さえた事業者は、着陸料、充電料、テナント収入という複数の収益源を長期に確保できる可能性があり、エアモビリティ産業の中でも安定的な事業モデルとして参入検討が活発化しています。詳細な収益構造はビジネスモデルと収益性のページで解説します。